疾患啓発綱領策定にあたり
疾患啓発活動に携わる者は、多くの悩みを抱えています。疾患啓発活動を行う際、どういったことに注意し、どう活動するかの指針がこれまで存在しておらず、あらゆる方面から情報を入手して試行錯誤しながら進めている現状が2020年2月~4月に当研究会が実施した「疾患啓発活動実態調査」(43社から回答)で明らかになりました。当研究会では、疾患啓発綱領(案)を策定し、Webサイトでパブリックコメントを募集するとともに患者団体、業界団体、業界メディアからヒアリングを行って内容を修正し正式版を2020年7月開催の第18回定例会で発表いたしました。疾患啓発活動の基本原則となる6つの行動基準を綱領の中に定め、疾患啓発活動に携わる者が行動基準に沿った活動に努めるとともに迷った時の道標として利用し、公明正大な取り組みを行うことで、結果として患者さんの利益に繋がり、更に疾患啓発活動について社会からの理解が深まり、製薬企業の責務を果たす前向きで重要な取り組みとして認知されていくことを期待します。
2020年7月
疾患啓発(DTC)研究会
疾患啓発綱領策定委員会
疾患啓発綱領
背景
近年、疾病に対する新規治療法や対処法は日を追うごとに、複雑かつ詳細になってきています。しかし、患者さんやそのご家族、一般の方がインターネット等で入手する様々な医療情報の中には根拠に乏しい内容も混在しており、場合によっては治癒の遅延や症状の悪化につながりかねません。よって製薬企業は、病気に苦しむ患者さんに対して適切かつ十分な疾患情報を速やかに提供することで疾患を認知させ、よりよい治療の選択に患者さん本人が参加できるよう努めなければなりません。そこで、製薬企業が患者さんやその家族、一般の方に向けた疾患に関わるさまざまな啓発活動を実施する際の基本原則をここに定めました。
序文
本綱領では、製薬企業が疾患に係わるさまざまな啓発活動をともに進める団体・組織や協力会社とともに、それぞれの立場を尊重し、たがいに協力して使命を達成するため、基本となる行動基準を定めて疾患啓発活動に関わる倫理の向上に寄与することを目的としています。
理念
われわれ製薬企業において疾患啓発活動に携わる者は、正しい治療を適切に受けられず苦しむ患者さんを減らし、豊かで健康的な生活を送る人々を増加させることに真摯な気持ちを持って取り組まなくてはなりません。また、疾患啓発活動が社会に与える影響の重大さを認識し、製薬企業本来の社会的責任を果たすことを使命とします。
行動基準
(1)患者さん中心
疾患啓発活動に携わる者は、患者さんやそのご家族が最適な行動を取るために必要な情報を提供しなければならない。疾患に対する患者さんの不安や治りたいという望みを理解し、より健康につながる方法を示すことで、患者さんの利益を守ることが最優先されること。
(2)公明正大
疾患啓発活動は、順法、公明正大、誠実、科学的、客観的でなければならない。関係法令や業界内自主規範、倫理規範、社会一般常識を遵守し、多くの有識者が認めるエビデンスに基づく公正な内容を提供すること。
(3)偏りのない情報
疾患啓発活動で提供する情報は、自社の利益を優先した情報に偏ることなく、患者さんやそのご家族が置かれた状況や立場を最優先に考えて提供しなければならない。考え得る全ての治療選択肢や薬物療法以外の健康的なライフスタイル(食事療法や運動療法)についても合わせて情報提供を行うこと。
(4)分かり易い表現
疾患啓発活動で伝える情報は、患者さんやそのご家族が理解しやすいよう、わかりやすい文章表現を心がけなければならない。患者さん向けの資材はそれを見る人の視点で作成し、医学的なデータは分かりやすく平易に解説することで、治療を続ける動機づけにつなげること。
(5)不安・不快にさせる表現や繰り返しの排除
疾患啓発活動では、情報を受けとる人が不安・不快に感じる表現や頻度とならないよう細心の注意を払わなければならない。その表現は患者さんやそのご家族の不安をあおるような恐怖訴求は厳に慎み、治療を進めた後に目を向けさせる前向きな内容が望ましい。また、コミュニケーションの頻度は適度なバランスを考え、患者さんが必要とするタイミングに合わせて情報を提供すること。
(6)自由意志の尊重
疾患啓発活動に携わる者は、健康水準を高めるために医学的に望ましいと考える意思決定を、患者さんが自由意志のもと選択できるよう活動しなければならない。患者さんを中心に据え、最終的に患者さん本人の判断を最大限に尊重すること。
まとめ
多くの患者さんは、自分が健康になるための正しい情報がタイムリーに得られれば、本当に心強く思うのではないでしょうか。疾患啓発活動に携わる者は、患者さんの周囲にいる家族や医療関係者・団体・組織等と協力し、患者さんを直接応援する役割を担っています。今後、本綱領に定めた基本原則に則りそれぞれの企業が積極的な取り組みを行うことで、疾患啓発活動について社会からの理解が深まり、製薬企業の責務を果たす前向きで重要な取り組みとして認知されていくことを期待します。